「記憶を呼び起こす香り」という意味の朝鮮語を、初めての自分の店の名前としてスタートLouis Hanは、数年後、32歳でミシュラン1つ星を獲得した。順調な滑り出しだろう。ソウルの江南で弁護士の母親の元に育った。医者や弁護士に、という母親の期待を振り切って、料理人になりたいという固い決意を持って料理学校へと進んだ。
と言っても反骨精神でもなんでもなく、優しい大家族に囲まれて、自分の心が導く道に進んだのだろう。フランス料理とイタリア料理を学んで、中東で経験を積み、シンガポールに舞い降りた時には、自分の母国の料理に没入した。シンガポールの先輩であり、ミシュラン1つ星の先輩であるMETAのSun KIMの下で自分を磨き、自分が何をやりたい、どのようなシェフになりたいかを探求した。
Louisが追求するのは、思い出が体の中から湧き上がってくる時の多幸感。それを料理に先行する香りとそれに続く料理を中心に、レストランのドアを開けた時から、帰るまでの時間の中で、どれだけ提供できるか。という自己への課題である。
シンガポールはそうした彼のチャレンジに大きな自由度を提供しているだろう。韓国料理だけど、韓国料理ではないし、フランス料理やイタリア料理でもない。どこまで意図的でどこまで無意識によるレシピなのか。一緒に幸せな時間を過ごしたい、その時間を記憶に留めてくれて、いつかまた戻ってきてくれるような関係になりたい、という希望と期待に基づいたレシピなのである。
今日34歳のLouisは、これからさらに記憶の再編集を果敢に行なっていくであろうし、「記憶を呼び起こす香り」の調香技術も高めていくだろう。しかし、技術以上に大切なものを最も大切なものとして守り発展させるシェフとして歩むことも間違いない。