シンガポールのベストロケーション、マンダリン・ギャラリーの2階に2015年オープンのミシュラン1つ星。山中シェフは、かつて東京銀座のグランメゾンL’OSIERで初代料理長ジャック・ボリーに見込まれメインディッシュを任されていた早咲きだ。
その後、東京リッツ・カールトン・ホテルのメインダイニング総料理長を務め、その時にシンガポールからのお客に見込まれ、中心地オーチャード・ロードで世界の客をもてなすこととなった。
しっかりとしたフランス料理の技術と様式をベースに、日本の食材を積極的に取り入れ、季節のない街で季節感のあるフレンチを提供する。今時、日本のフランス料理シェフなどでは、とことん日本のローカル食材でという人も少ない中、このようにBÉNIを紹介してしまうと個性がないように聞こえてしまう。しかしそうではない。やはり顧客の求める日本やアジアの再定義再構築が山中シェフの感覚の中で日々行われている。
今回の撮影には、こちらから何もリクエストしていないのだが、そうした日本的なアクセントを再解釈した3品を選んできた。
ビーガンの茶碗蒸しを下に敷いたマシュルーム・スープ、鮑のパイ包みも、それぞれ楽しい日本が包含されているが、ブリ大根の再解釈はシェフのここまで来た料理を整えるキー・ディッシュの一品だろう。日本の冬の定番の家庭料理/居酒屋料理を、古典的でも新しくもあるフレンチ・メソッドの中に、見事に落とし込んでいる。
1月の富山氷見港から届いた鰤に蕗味噌をベースとしたいくつかの種類の大根であしらって、夏の気温のシンガポールで美味しくいただく見事なフランス料理に仕立て上げている。
山中シェフのローカルを吸収した料理はいよいよ繊細ながらシャープなものとなっていく。そんな確信を十分に持たせてくれる一品だ。