エリタージュ バイ ケイ コバヤシ

Héritage by Kei Kobayashiは、20241月ザ・リッツ・カールトン東京の45階にオープンした。その前身となる同じ場所にあったAZURE 45で、すでにコラボしていた村島輝樹氏が料理長を務める。アジア人で初めてフランスでのミシュラン三つ星を獲得した料理人として知られる小林氏が自らの名を冠して監修する日本で初めてのレストランとなった。

コンセプトはクラシカル・フレンチを明日へと繋ぐ現代的表現だ。時代を切り開くイノベーティブな料理を展開し三つ星維持とそこからのKei styleづくりを主題とするパリの店、あるいは地産地消を基盤とし富士山を臨む御殿場のMaison Keiとも異なる、ある意味東京の真ん中というニュートラルな地だからこその彼らしいテーマだ。

村島料理長もその意図をよく理解し、自分が歩んできたフランス料理の道と重ね合わせて、興味深いバランスのハーモニーを生み出している。氏は、若い頃のフランス修行、東京の人気店、そしてまた1年イタリアで修行の後、東京の名店モナリザでスーシェフを務めた。その後、ラトリエ・ド・ジョエル・ロブション台北でスーシェフ、東京で二つ星リオネル・ベガ傘下のアジルで料理長を務め一つ星を得た経歴を持つ。様々な角度からフランス料理を探求してきた人で、フランスと自分を突き詰めた小林氏とのトーンの絡みが独特の豊かさを生んでいる。

今の時代、地方性の探求という大きな潮流が世界を流れ、世界中でイノベーティブ&クリエーティブでかつガストロノミカルな料理と料理人が生まれている。BRAS Channel でもMichelSebastienばかりでなく、L’EVOMAZ TOKYOなど、そのような潮流の先端をいくシェフ達を積極的に取り上げている。そうした潮流が強くなれば自然と別の一方で、基本の哲学、文化、技術、自分の料理とは何か、そうした考え方を時代の中で再考しようとする力学が働くものだ。東京の厨房で、2人の卓越した日本人シェフが、身体に刻み込まれたフランス料理から発想する「明日に繋げるクラシック」は、今日曖昧にカテゴリー化される多くのイノベーティブ料理より、はるかに時代の感覚を表現している。ぜひ見て頂きたいクリップだ。メニューの大きな文字を読めば王道のフランス料理。染み込んでいる今日的な響きが次第に聞こえてくる。