Chef's Universe

日本はもちろん、寿司と刺身だけの国ではない。 長い列島の島国であるが故に、海流も多様。故に水面下の環境が多様で、多くの多様な魚介類を育ててきた。それが各地で多様な調理の仕方を生み出し、その個性を消費者が大切にしてきた歴史が、ここ数十年のハイテク流通の開発の背景となり、非常に状態の良い魚が都会の料理人のまな板の上にも乗る環境を支えている。 そうしたsea food 列島でも、「明石の鯛」は日本一とも言われる白身魚のブランドだ。瀬戸内海に面した明石の海は、魚の身が引き締まるのに良い条件としての潮の流れの速さ、そして鯛の上品な味を支えるその餌としての甲殻類の豊富さで知られる。そこで水揚げされる鯛は、特定の仲買人しか扱うことができず、しっかりとクオリティが管理されている。 明石港の競りは全国各地の港でもあまり見ることのない、一匹ずつ魚を台の上に流して見せて、それを競るスタイルになっている。「明石の鯛」ブランドのプライドなのかもしれない。  東京代官山でしっかり寝かせ熟成させた魚を屈指しての繊細なフランス料理で人気(Michelin一つ星)のSimpliciteの相原シェフは、そうした明石の鯛をもっともコンテンポラリーに扱う料理人の一人だ。普段から、3~4日週間寝かせ熟成さてた魚などをたくみに料理してくるシェフが、秋になって旨味の増したMomiji-DAI ( Autumn Leaf Dorade)を、自ら明石に出向いてその状態を見極め調理してくれた様子を、このクリップは紹介している。 相原シェフの魚を熟成させて旨味をさらに引き出す調理は、状態が極め付けに良い新鮮な魚があってこそできることと自覚し、それが故に明石の港とそこに生きる人々との信頼関係を大事にしていきたいと考えている。 動画リンク: Michel BRAS Kitchenware のチャンネル登録をお願いします。 既にたくさんの面白いガストロノミー・ストーリーをアップしていますし、これからも新しいラインアップが順次増えていきます。

生江史伸がシェフを務めるレフェルヴェソンスはMichelin 3 starであり、Asian best 50’s の常連で、2023年にはそのアイコンアワードに生江シェフ自身が選出された。海の再生に重要な役割を果たす海藻について国連で講演をしたり、生産者とフードロスや食の安全性などに関する共同作業を行い政府に働きかけたり、ガストロノミー業界にも社会や地球のためにさまざまなことができることを証明するシェフとして世界で注目される。 しかしながらこのBricolage bread & co.は、食べてくつろぐ時間の喜び、自分たちの街にそういう時間が過ごせる場所が欲しいという純粋な動機から生まれた、個人や仲間の共感や実感に立脚する快作だ。 レフェルヴェソンスで提供するために、わざわざ大阪から毎日送ってもらっていたブーランジェリー「ル・シュクレ・クール」その岩永歩と、生江シェフが美味しいコーヒーでくつろぐために通っていた「フグレントウキョウ」の小島賢治の3人のインスピレーションが揃った時が、この場所が生まれる時だった。美味しいものが人にもたらしてくれること、その素晴らしさ、可能性を信じている3人が一緒にやらなければできない何かをやる喜びが柱になっている。 ガストロ・バーガー、ガストロ・タルティーヌと美味しいコーヒーで、忙しい日のひとときを大きめなテーブルに腰掛けて気分を変えて過ごす。マクロな視点での社会や環境問題に向ける眼差しと同じパッションとエネルギーで、こうした日々の個人単位のちょっとした喜びの提供にも体が動く。素晴らしいことだ。 一体、どのように時間を分割したら、このように多彩な活動ができるのか、開目見当がつかない。ガストロノミー業界は、店舗を多数展開するだけで、得てしてそのクオリティの問題が問われる。しかし彼はその領域を超えた活動をもしながらも、レストランやカフェの質は揺るがないし、ますますその洗練は進化している。全てが繋がっているからこそ、成し得ることなのだろう。味は雄弁だ。   動画はこちら: 他のシェフや生産者の動画もございますので、ぜひチャンネル登録して頂けたら幸いです。  

北村シェフとMichel BRAS channel とのコラボは、彼がパリのERHのシェフをしていた2022年のことである。Cuisine de voyageとも言われるエキゾティックなスパイスやハーブを巧みに使うシェフが、Le Moulinを使って新たな試みに挑戦してくれた。 ここまでミシュラン1つ星を3年継続していた彼は、明らかに新たな高みへの道筋を模索していた。日本ではLe Creation de NARISAWAで長年腕を磨き、その他数人の料理人から色々学んできたという。パリではピエール・ガニエールなどを経て、ビストロのシェフを5年間経験。それまでずっとガストロノミー一筋だったので、学ぶことが多く、技術力をつけるということにおいてもとても良い経験だったと語る。 さまざまな経験と持ち前の柔軟性と感性で、北村シェフの引き出しはとても豊富だ。ERHはオーナーが日本酒とのペアリングを基本とした料理というテーマの上での構築だったので、それを土台としたCuisine de Voyage。フランスを中心とした南ヨーロッパの食材を中心に、日本で磨いた自分の技術と感性を中心には据えるものの、決して日本旅行などに向かわない、シェフ北村が世界を巡る料理だった。 Michel BRAS kitchenwareとコラボさせていただいた折は、すぐにLe Moulinの特性と可能性を理解し、彼ならではの旅の地平線をビデオでも語っているようにダイナミックに広げる提案を見せてくれた。 クルジェットの天ぷらにネパールのティムやインドネシアのアンダリマンを粉砕してかけ香りを出した一品の奥行きと立体感、オマール海老・あんず・フレッシュ・アーモンド・インゲンの合わせたものにバニラの鞘とバニラに香りの類似した豆とを細かく砕いてかけた時の重層的な酸味のセンセーションの素晴らしさ、そして3品目のフランス産鴨に北村シェフらしい火入れを施し、ソースに合わせてオレンジ・ゼスト、乾燥ビーツ、乾燥コリアンダーのミックスを仕上げに振りかけ、素晴らしい味と食感と香りの深み。まさに北村啓太にしかないcuisine de...

  ガストロノミー・シェフのオリンピックとも言われる、ボーキューズ・ドール参戦者の資格を得られる日本大会一位を獲得したシェフとしても知られる戸枝忠孝シェフ。食材のほとんどを彼の拠点とする信州から調達し、その独特な料理で訪れるファンたちを魅了する。 信州出身というわけではない。滋賀県などで育ち22歳でフランスに修行に出た。ジャン=ポール・ジュネ、ジョルジュ・ブラン、レジス・マルコンなど大物シェフの元で学んだ。特に、レジス・マルコン氏から学んだことは戸枝の料理に関する考え方に大きな影響を与えたという。     帰国後、有名シェフの軽井沢店の料理長を任された機会が、信州との大きな接点となった。 4年後の2011年に独立して、高級別荘地区であるその地にTOEDAをオープンした。 その後、彼の繊細で洗練された料理はますます磨きをかけられていったが、それとともに使われる食材がどんどんと信州産のものとなっていった。信州には素晴らしい自然環境があり、雪解けの水がある。それに加えて、生産者の個性とその多様性、またそういった人たちの数が多いのが信州の特徴であり、そして彼らが戸枝シェフに挑戦し続けるのである。     信州は、東京から車で2~3時間で入り始める美しい自然に溢れる地域だ。一つの県内で少なくとも3つからの明らかに異なる文化圏で構成されており、読書率が高い、健康康寿命が長い県としても知られる。明確な答えをもたらす分析は無いが、面白いもの、変わったもの、独自のものを生み出すモチベーションが高く、そして実際にさまざまな素晴らしいものが生まれ続ける地域なのである。 野菜や果物でもその栽培にさまざまな工夫を凝らす生産者が大勢いる上に、牛と羊を扱うダボス牧場、生ハム工場の藤原氏、信州サーモンの養殖で知られる「八千穂漁業」などの、工夫と改善のための手を止めることのないenthusiast 達との「磨き合う交流」も戸枝料理の個性の一角と言える。   「信州の生産者の魅力を伝えたい」だけに留まらない協奏がそこにある。生産者の意図や結果を統合して一つ一つの皿にする構想力は、これまでも磨き続けてきたし、これからもそうした生産者達とのコラボレーションの中で磨き続ける。そうした決意が戸枝の日々の料理にピンと張った静けさをもたらしている。  

自分たちの菜園でその日の野菜やハーブを育て、その個性や変化を探求し、より自分の料理を深めていく。今では世界の多くの料理人がそうした手法を採用し、生命のダイナミックさを伴ったそれぞれの創作を味わせてくれる。素晴らしいことだ。ミシェル・ブラスは、それを半世紀近く前からそれを実践してきたパイオニアの一人であり、今も世界の料理界、foodies, 上質で自然体なwell beingを目指す人々などさまざまな人々に大きなインスピレーションを与えている。 日本のレイク・ディストリクトとも言われる富士five lakesの一つ、河口湖地区にレストランを構え2021年にはゴ・エ・ミヨYAMANASHIも獲得している豊島雅也も、自宅前に菜園、蜂蜜採取箱などを構えるそうした方向で知られるシェフだ。彼のユニークなところは、自家菜園などに留まらず、河口湖全体環境の一刻一刻と共に生き、料理を考え、来る客に提供することだ。   山を歩き、鹿の足跡の様子を見て、白樺の樹液や各種山菜や野草を採取する。山菜や花は毎年微妙に異なる成長を見せるし、少し時期が変われば場所も変わりもちろん味も変わる。湖面に富士山の影を映す河口湖の周辺環境は数日単位で変化し、自ずと食材もその採取判断も、自ずと調理自体も敏感に変化してゆく。 豊島は厨房に立つ前に毎日山に入ってそうした変化を楽しみ、その成果を客との対話と提供する料理に凝縮させる。少人数のキッチンだからできるオペレーションでもあるが、それによって見事なまでに独自の世界を作っている。 驚くようなクリーンなジビエを持ってきたハンターに弟子入りをして仕留め方や後処理を学び、それでもある動物の個体差を活かす料理法を研究し、「繊細な野生味」という逆説的とも言える味を提供している。現在は、河口湖の駅近くに店を持つ豊島シェフだが、近々もっと奥まった自然に抱かれたロケーションに店を移転し、調理に使う火はすべて薪で行うオペレーションのキッチンにする予定だ。 Uncontrollable なものを求めそれらを探求し繊細な仕上がりへと昇華させる。そのユニークなガストロノミー体験はさらに楽しく優しく煮詰められていきそうだ。 詳しくはドキュメンタリーをご覧ください: