Chef's Universe

  ガストロノミー・シェフのオリンピックとも言われる、ボーキューズ・ドール参戦者の資格を得られる日本大会一位を獲得したシェフとしても知られる戸枝忠孝シェフ。食材のほとんどを彼の拠点とする信州から調達し、その独特な料理で訪れるファンたちを魅了する。 信州出身というわけではない。滋賀県などで育ち22歳でフランスに修行に出た。ジャン=ポール・ジュネ、ジョルジュ・ブラン、レジス・マルコンなど大物シェフの元で学んだ。特に、レジス・マルコン氏から学んだことは戸枝の料理に関する考え方に大きな影響を与えたという。     帰国後、有名シェフの軽井沢店の料理長を任された機会が、信州との大きな接点となった。 4年後の2011年に独立して、高級別荘地区であるその地にTOEDAをオープンした。 その後、彼の繊細で洗練された料理はますます磨きをかけられていったが、それとともに使われる食材がどんどんと信州産のものとなっていった。信州には素晴らしい自然環境があり、雪解けの水がある。それに加えて、生産者の個性とその多様性、またそういった人たちの数が多いのが信州の特徴であり、そして彼らが戸枝シェフに挑戦し続けるのである。     信州は、東京から車で2~3時間で入り始める美しい自然に溢れる地域だ。一つの県内で少なくとも3つからの明らかに異なる文化圏で構成されており、読書率が高い、健康康寿命が長い県としても知られる。明確な答えをもたらす分析は無いが、面白いもの、変わったもの、独自のものを生み出すモチベーションが高く、そして実際にさまざまな素晴らしいものが生まれ続ける地域なのである。 野菜や果物でもその栽培にさまざまな工夫を凝らす生産者が大勢いる上に、牛と羊を扱うダボス牧場、生ハム工場の藤原氏、信州サーモンの養殖で知られる「八千穂漁業」などの、工夫と改善のための手を止めることのないenthusiast 達との「磨き合う交流」も戸枝料理の個性の一角と言える。   「信州の生産者の魅力を伝えたい」だけに留まらない協奏がそこにある。生産者の意図や結果を統合して一つ一つの皿にする構想力は、これまでも磨き続けてきたし、これからもそうした生産者達とのコラボレーションの中で磨き続ける。そうした決意が戸枝の日々の料理にピンと張った静けさをもたらしている。  

自分たちの菜園でその日の野菜やハーブを育て、その個性や変化を探求し、より自分の料理を深めていく。今では世界の多くの料理人がそうした手法を採用し、生命のダイナミックさを伴ったそれぞれの創作を味わせてくれる。素晴らしいことだ。ミシェル・ブラスは、それを半世紀近く前からそれを実践してきたパイオニアの一人であり、今も世界の料理界、foodies, 上質で自然体なwell beingを目指す人々などさまざまな人々に大きなインスピレーションを与えている。 日本のレイク・ディストリクトとも言われる富士five lakesの一つ、河口湖地区にレストランを構え2021年にはゴ・エ・ミヨYAMANASHIも獲得している豊島雅也も、自宅前に菜園、蜂蜜採取箱などを構えるそうした方向で知られるシェフだ。彼のユニークなところは、自家菜園などに留まらず、河口湖全体環境の一刻一刻と共に生き、料理を考え、来る客に提供することだ。   山を歩き、鹿の足跡の様子を見て、白樺の樹液や各種山菜や野草を採取する。山菜や花は毎年微妙に異なる成長を見せるし、少し時期が変われば場所も変わりもちろん味も変わる。湖面に富士山の影を映す河口湖の周辺環境は数日単位で変化し、自ずと食材もその採取判断も、自ずと調理自体も敏感に変化してゆく。 豊島は厨房に立つ前に毎日山に入ってそうした変化を楽しみ、その成果を客との対話と提供する料理に凝縮させる。少人数のキッチンだからできるオペレーションでもあるが、それによって見事なまでに独自の世界を作っている。 驚くようなクリーンなジビエを持ってきたハンターに弟子入りをして仕留め方や後処理を学び、それでもある動物の個体差を活かす料理法を研究し、「繊細な野生味」という逆説的とも言える味を提供している。現在は、河口湖の駅近くに店を持つ豊島シェフだが、近々もっと奥まった自然に抱かれたロケーションに店を移転し、調理に使う火はすべて薪で行うオペレーションのキッチンにする予定だ。 Uncontrollable なものを求めそれらを探求し繊細な仕上がりへと昇華させる。そのユニークなガストロノミー体験はさらに楽しく優しく煮詰められていきそうだ。 詳しくはドキュメンタリーをご覧ください: