天川村の野生を味わう:SÉN 砂山利治シェフが紡ぐ「流域料理」の真髄

紀伊半島の深山、吉野・天川村。人口わずか1,100人ほどの熊野川水系の最上流に位置するこの地に、レストラン「SÉN」は佇んでいます。オーナーシェフの砂山利治氏は、修験道の聖地として1,300年の歴史を持つ自然の懐で、本場仕込みのフレンチ技術と日本の野生の息吹を融合させた新たなローカル・ガストロノミーを切り拓いています

ロンドンで生まれ日本で育った砂山シェフは、国際感豊かなキャリアの持ち主です。渡欧後、フランス・アヴェロン地方をはじめとする地方の名店で9年間にわたり研鑽を積み、北フランスの二つ星「ラ・グルヌイエール(La Grenouillère)」でスゥ・シェフを、ムジェーヴの三つ星「フロコン・ド・セル(Flocons de Sel)」などで腕を磨きました。帰国後は金沢「レ・トンネル」のシェフとして、当時史上最年少・最速でミシュラン二つ星とミシュラングリーンスタ—をダブル受賞する快挙を成し遂げました。

欧州の「美食のために遠方へ旅する文化」に触れた砂山シェフは、妻の故郷である天川村へ移住。「旅をしてでも訪れる価値のあるレストランが、地域を活性化させる」という信念のもと、農地に恵まれない険しい山岳地帯において、産業型農業に頼らない「流域料理(Watershed Cuisine)」という独自のアプローチを確立しました。熊野川流域の生態系をそのまま旬のコースメニューとして描き出し、狩猟や採集、地域住民との連携によって食材を調達しています

持続可能性への妥協なき姿勢は高く評価され、SÉNはミシュランガイドにて一つ星とミシュラングリーンスタ—を同時に獲得しました。薪窯にくべる薪は間伐材を活用し、地元のハンターや漁協、70代の農家と手を携えながら、野生のジビエや川魚、山菜を皿の上へと昇華させています


熊野川流域から届く一皿の物語

  • 岩魚(イワナ)のお造り

    洞川(どろがわ)地域の極めて清らかな湧水で育まれたイワナを新鮮なお造りで提供。寄生虫のリスクがない純度の高い水だからこそ叶う一品です。古来種の「大和橘」のピュレと春に仕込んだ葉わさびの酢漬けを合わせ、村産のトゥルシー(ホーリーバジル)茶のジュレ、自生するカタバミの花弁、そして香ばしく揚げたトゥルシーの茶殻を添えて仕上げています

  • アユの薪火ソテー

    天川村漁協の小川組合長が手釣った初鮎(アユ)を使用。三枚におろした身の間に熟成黒ニンニクとキハダのの実のピュレを挟み、芳香豊かなクロモジの枝に巻き付けてソテー。大和マナと八朔のサラダ、吉野地方に伝わる「ジャバラ」果汁のソースとともに、クロモジの樹皮の香りを纏った鮎を丸ごと堪能する一品です。骨と頭も香ばしくフリットにして添えられます

  • 野草とジビエの薪火焼き(鹿肉)

    地元のハンターから仕入れる野生の鹿肉を薪火でじっくりと焼き上げ、仕上げにアマゴの魚醤を塗って旨味を凝縮。山並みを模したズッキーニのプレッセと雲に見立てた焦がしバターの泡ソース、春に採集したワラビのピクルス、クルミ、そして鹿の骨からとった濃厚なジュ(出汁)を添えています

  • 吉野葛とニセアカシアのデザート

    春に収穫したニセアカシアの花のシロップをしみ込ませたビスキュイに角切りの桃、ニセアカシアと桃のソルベを重ね、伝統の「吉野葛」を用いたくず餅風のジュレと削りピーナッツで仕立てた一品


洗練されたフレンチの技法で、忘れ去られつつある山野草や野生の恵みに光を当てる砂山シェフ。「資源の限られた環境こそがイノベーションの源泉」と語る彼の料理とSÉNの取り組みは、天川村の歴史、生態系、そして食文化を次世代へと継承する大切な営みとな rounded います