薪火が紡ぐ、奈良の「今」と「時間」の循環 — Villa Communico 堀田シェフの哲学

薪火が紡ぐ、奈良の「今」と「時間」の循環 — Villa Communico 堀田シェフの哲学

薪火が紡ぐ、奈良の「今」と「時間」の循環 — Villa Communico 堀田シェフの哲学

奈良・若草山の麓、歴史の面影と豊かな自然が交差する場所に佇むオーベルジュ「Villa Communico」。2024年9月に新たなステージへと移転したこの場所で、堀田大樹シェフが日々対峙しているのは、土地の恵みと「薪火」が織りなす究極の素材感である

堀田シェフが薪火を用いる最大の理由は、食材が秘めるピュアで力強い旨味と風味を、極限まで閉じ込め、凝縮させることにある。薪火特有のスモーキーな香りを纏わせる一般的な手法とは対照的に、シェフは食材の水分を緻密にコントロールする繊細なアプローチをとる。例えば、キハタの一皿では、身にはしっとりとした潤いを保たせながら、皮目はパリッと香ばしく焼き上げるという、相反する表情を両立させる妙技を見せる。また、滋賀「サカエヤ」から届く熟成牛に対しても、薪火の情熱的な熱入れによって、表面の香ばしさと内側から溢れ出す瑞々しいジュースの鮮烈なコントラストを生み出している

料理のもう一つの大きな特徴は、皿の中に「時間軸」を刻む発酵の技術だ。旬の輝きを放つ短命な食材や、豊作で溢れた食材を、自家製の味噌、醤油、ビネガーなどの発酵食品へと優雅に姿を変え、数ヶ月後、あるいは次の年に同じ食材と結び合わせる。この先見的な技法により、過去と現在、そして未来が重なり合うような、奈良という土地の奥行きを深く湛えた一皿が完成する

ここで特筆すべきは、堀田シェフがイタリアで料理を学んだ際の原体験にある。現地の人々が「イタリア料理を作ろう」と意気込むのではなく、地元の風土や素材がDNAのように身体に刻まれており、結果としてそれがイタリア料理になっていたという気づきだ。シェフはこの精神性を奈良の地で体現している。奈良で無理なく手に入る食材を選び、自身の知識と感性を重ねる作業は、いわば「奈良の土地そのもの」を料理という言語に翻訳することに他ならない。この地に根ざし、この地の理(ことわり)に従って作られた料理は、単なる地方料理という枠を超え、奈良の土壌と歴史が堀田シェフというフィルターを通じて再構築された「必然の味」といえる

「Villa Communico」の料理は、生産者との深い信頼と敬意の物語でもある。幼少期から共に育った「萩原苺農園」の古都華(ことか)は、シェフがその芳醇な香りに深く惚れ込み、長年愛用し続けている奈良の誇る品種だ。こだわり抜いて育てられたハーブや野菜を「分け与えていただく」という謙虚な感覚を、シェフは大切にしている

店名の「Villa Communico」は、ラテン語で「共有する」「分かち合う」を意味する。世界を巡り学んだ技術を、自身のルーツである奈良の食材で昇華させ、生産者の情熱を料理という形に変えてゲストと分かち合う――この美しい循環こそが、Villa Communicoの揺るぎない核心である。奈良という土地の固有性が、シェフの感性によって唯一無二の体験へと昇華されるこの場所で、その物語を深く堪能することができる