NABENO-ISM


渡辺雄一郎シェフは、ずっとエリートコースを歩んできた。辻調理師専門学校のフランス校、 クールシュヴェルとサントロペの二つ星ル・シャビシューでの研修。その後ル・マエストロ・ ポール・ボーキューズでポジションを得ても、ロビュション・グループでシェフを任されて も、そのまま上のポジションを目指すのではなく、他シェフの店に修行に出てはまた戻って 腕を磨くという、常に厳しく研鑽を意識し実行してきた料理人である。その結果として、東 京のジョエル・ロブションのエグゼクティブ・シェフとして 9 年連続ミシュラン 3 つ星を 維持。文字通り恩師への恩返しを見事に成し遂げた料理人だ。

そして 2016 年 NABENO-ISM。江戶(19 世紀半ばまでの東京の名称)情緒の色濃く残る駒 形にそれまでの自分の経歴を振り切ったような名前を冠したレストランを開業した。江戶 の食文化や老舗の匠がそこに組み込まれた、それでありながらどっしりとしたフランス料 理として展開される品々、あるいは国内素材と言ってもあまり流通していない珍しい素材 のポテンシャルを見事に開かせる料理の連続。常に自分を厳しく磨き続けたが故の引き出 しの多さ、多様な展開、落とし込む着地の妙がそうした展開を可能にする。


オープン以来、一つ星、二つ星と順調に登ってきた道に 2024 年一つ星という踊り場ができ た。独立 10 年目が見え始めて、そろそろ少し迷う時期なのかもしれない。見事に磨き上げ た自分こそが、後に残った対峙べ存在だと見えてきた時期推察する。 PasqueJesuisJaponais というとてもシンプルな言の意を、徹底的に磨き続けたフラン ス料理の学と技法にどのように見出すのか、あとで振り返るとこの踊り場の時期が 重要役割を果たしているのかもしれない。