O.MY は、メルボルン CBD から車で約 45 分、ヴィクトリア州ビーコンズフィールドの静かな町に位置するレストランである。カーディニアの農地に程近いこの地は、都市の喧騒を離れ、土地と食の本質的なつながりに立ち返るには理想的なロケーションと言えよう。 レストランは、ビーコンズフィールドの旧郵便局を改装した建物に入居している。 1878 年に建てられたこの建物は、築およそ 150 年の歴史を持つ。外観のたたずまいとは対照的に、内部は自然光の差し込む落ち着いた空間が広がり、コルディアルや謎めいた液体の瓶が壁に並び、乾燥したハーブや根菜、花のポーセが吊るされている。まるでハーブ薬局のような静謐さが、厨房の哲学をそのまま空間に宿している。27 席のダイニングルームに隣接する形で、ワインバーと直売所「ベルトンチェッロ・ワイン・マーチャンツ」が設けられており、追加で 15 名を収容できるよりカジュアルな空間として機能している。
「O.MY」という名前に込められた思いは、シンプルにして深い。土地が語りかける言葉に、ただ耳を傾けること。驚嘆し、感謝し、分かち合うこと。その一皿一皿に、土と水と季節の記憶が刻まれている。 受賞歴も数多い。「サヴール・オーストラリア」において 2015 年と 2016 年に年間最優秀レストラン賞、2016 年と 2017 年に全国コンテンポラリー・オーストラリアン・レストラン賞を受賞。「サンデー・ヘラルド・サン」の Delicious.100 では 2016 年から 2019 年にかけて継続的にトップランク入りを果たし、「タイムアウト・メルボルン」の 50 ベスト・レストランでも 2020 年に 18 位にランクインしている。
ブレイン・ベルトンチェッロは、農家の家系に生まれた。父はイタリア系移民で市場農家を営み、母方の家族はオーストラリアで最初の果樹園農家のひとつとされる。幼少期から土を耕すことが生活の一部であった。 16 歳でメルボルンの「ノッシュ」にて料理の見習いを始め、わずか 1 年で同店のヘッドシェフに就いた。4 年間その職を務めたのち、 23 歳のとき、長年温め続けてきた夢を実現させる決断を下す。兄弟のチェイスとタイソン(現在は自身のケータリング会社を運営)とともに、故郷ビーコンズフィールドにレストランを開くべく動き出した。
2013 年、ウッズ・ストリート 23 番地にかつて精肉店として使われていた建物を見つけ、25 席のレストランへと改装し、O.MY をオープンさせた。 2019 年には隣接する旧郵便局(19-21 ウッズ・ストリート)へと新章を刻み、バーを先行オープンさせたのち、同年 6 月にレストランも移転開業した。 その直後、試練が訪れる。2020 年 11 月 13 日の金曜日、メルボルンの長期ロックダウン明け翌日の営業中、O.MY は火災に見舞われ、建物はわずか 15 分で焼け落ちた。しかし兄弟は挫けなかった。「諦めるつもりはない。サポートも十分ある。再開するまで止まらない」とブレインは語った。そして実際に、彼らは再び立ち上がった。現在の O.MY は、その不屈の精神の上に成り立っている。 O.MY の厨房を語るうえで、農場は切り離せない。カーディニアにある 3.5 エーカーの農場は、ブックキーパーを務める兄の義父が所有する土地であった。関係者の協力のもと、ベルトンチェッロは約 3 年をかけてこの農場を自給自足モデルへと育て上げた。現在この農場には 350 以上の栽培ベッド、50 本の果樹からなる果樹園、ベリー畑、そして養蜂箱がある。タンパク質源や小麦粉など一部の例外を除き、メニューのすべてが農場産の食材で構成されている。 毎週、メニューはゼロから書き直される。月曜日に収穫物のリストをまとめ、火曜日にメニューを組み立て、水曜日から仕込みを始め、金曜日に再び農場を収穫する。このサイクルを繰り返し、季節と土地の声に耳を傾け続ける。夏はトマト、ズッキーニ、冬はパンプキン。収穫できないシーズンには、ピクリングや保存加工によって一年を通じて農場の恵みをテーブルへ届ける。無駄を出さないというのは、理念であると同時に、毎日の実践でもある。 ホームメイドのサワードウは毎日焼き上げられ、チャーンしてから 2 時間以内のバターと、ハーブの庭塩とともにテーブルへ運ばれる。レストラン開業以来守り続けてきたルヴァン(発酵種)が、その滋味深い香りと食感を今日も生み出している。 ダイニングルームでは、兄チェイスがソムリエとして、またフロント・オブ・ハウスとして場を支える。ブレインはキッチンとダイニングを行き来しながら、スタッフと客の境界を意識させない親密な空気を醸成している。「ファインダイニング」という言葉の持つ緊張感はここにはない。ホスピタリティは、気取りなく、いかにもオーストラリアらしいやりとりの中で、自然に手渡される。 農家の血筋、兄弟の絆、火と土への敬意、そして一度は灰となりながらも再び芽吹いた意志。O.MY はそのすべてを、一皿の静けさの中に湛えている。ビーコンズフィールドという、どこか忘れられたような小さな町に、オーストラリアの食の現在地がある。
